はじめに
65歳以上の方(「高齢者」と定義されます)が既に全国民の4分の1に達し、まもなく後期高齢者となる75歳以上の方が全国民の4分の1に達するといわれ、わが国は完全に高齢化社会に入っています。人は皆、同じ速さで年をとります。高齢者の問題は他人ごとではありません。また、日本だけではなく地球上のどこにでも、一定の割合で障がい者が生まれます。
高齢者、障がい者であることが問題なのではなく(これらは人間の一態様、個性のひと つにすぎません)、人それぞれの状況に応じた権利、利益の保護ないし確保、(法的な)環境整備をはかってゆくことが今の社会に求められています。当事務所でも、これらの問題に積極的に取り組んでいます。
年をとられると、個人差はあるものの、次第に精神、肉体の両面で自分で思うようにできないことが増えてしまいます。これは誰にでもあてはまることなので、仕方がないことです。
その時、自分の財産(年金収入、不動産、預貯金、株式など)をしっかり管理し、いろいろな態様の詐欺行為や財産の侵害などから自分自身を守ることが必要になってきます。
他人だけでなく、本当は信じられるはずの身内が、自分の年金やいろいろな財産を勝手に管理してしまい自分に渡してくれない、時には勝手につかってしまうなどの問題も多く発生しています。
また、財産の問題だけではなく、自宅や介護施設などで精神的、肉体的にひどい虐待を受けるケースも報告されています。
高齢になるほど、こうした問題を解決しようとする気力、体力が失われ、何も言えなくなってきます。
判断力がなくなり、または低下した高齢者の財産を、親族の1人が独占して勝手につかっている場合などでは、家庭裁判所に成年後見などの開始の申立てをし、弁護士など適切な専門家が後見人などになることにより、その財産を守ることができます。
こうした問題は、高齢者に限らず、いろいろな理由によって障がいをもっている方々にもあてはまります。
最近、新聞などで、成年後見人など財産管理人の不祥事(いわゆるつかい込み)が報道されています。そのことに少し触れたいと思います。高齢者、障がい者の財産管理は大半、その親族によって行われています。そして、つかい込み事件のほとんどがこれら親族による財産管理の場合に発生しているといわれます。もしかすると身内ゆえの「甘え」があるのかもしれませんが、その理由、原因はいろいろあるかも知れません。
弁護士の成年後見人の不祥事も最近大きく取り上げられました。大変困ったことで決して弁解することはできませんが、全体の管理数からするとほんの一部にすぎません。大部分の弁護士は誠実に後見などの事務を行っています。弁護士や司法書士が成年後見人などに選任される場合、本人の身上監護(身の回りの世話)は入所している施設や自宅で同居する親族が行い、弁護士や司法書士は主に財産管理だけを行えばいいと思われがちですが、実はそうではありません。成年後見人などの職務は身上監護と財産管理の両方にまたがっており、身上監護の面では、入所施設には契約で、同居する親族には事実上の委託をしているにすぎません。
静岡県弁護士会では、民法の改正などによって新たな成年後見制度が施行されるのとほぼ同時に、高齢者、障がい者支援のための専門委員会(「高齢者等委員会」と呼ばせていただきます)を発足させ、私もまた、発足から現在までの間、この委員会の委員として活動をしてきました。
高齢者等委員会では、家庭裁判所が弁護士を成年後見人などに選任するのに備え、弁護士会会員の中から候補者名簿を作成し、毎年これを改訂して家庭裁判所に渡しています。家庭裁判所もまたこの候補者名簿に従って成年後見人などを選任しています。補償額3億円以上の弁護士損害賠償責任保険に加入することと委員会が担当実施する研修を受けることが成年後見人等の候補者名簿に搭載される条件となっています。そして、研修は、成年後見人などの職業倫理、職務内容、ノウハウ、管理報告書式など多岐に亘り行われます。
このように静岡県弁護士会の候補者名簿に載っている弁護士であれば安心して成年後見人などの仕事を任せることができると思います。当事務所の弁護士は、この候補者名簿に載り、既に何件かの仕事を引き受けています。
では、高齢者、障がい者に関する法的な制度として、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。以下、個別的に説明します。