(1)成年後見制度
精神上の障害によって、判断能力がまったくないか、ほとんどない状態にある人にあてはまる制度です。
保佐、補助制度もそうですが、後見制度は自動的に開始するのではなく、本人、配偶者、4親等内の親族など一定の範囲にある人が家庭裁判所に申立てをし、家庭裁判所が「審判」という形で後見の開始を決めた上で後見人を選びます。見人を選びます。
ちなみに、親族の3親等や4親等とはいったい何でしょうか。例えば、自分といとことの間の親等数ですが、自分の父母の兄弟姉妹(おじ、おば)のいずれかの子がいとこですから、共通の祖先は祖父母となります。そこで、自分から父母(1親等)→祖父母(2親等)とさかのぼり、次に、祖父母(2親等)から父母の兄弟姉妹(おじ、おば:3親等)そしていとこまで下ってきますと、いとこは4親等ということになります。
後見が開始されますと、後見人は、本人の代理権をもち、財産の管理を行い、本人のした行為を取り消すことができます(その場合、本人も取り消しができます)。
本人が独立してできる(取り消しができない)のは、日常生活をするのに必要な行為、すなわち食料品や衣類の購入などです。
(2)保佐制度
精神上の障害によって、判断能力がいちじるしく不十分な状態にある人にあてはまる制度です。
この場合も、本人、配偶者、4親等内の親族など一定の範囲にある人が家庭裁判所に申立てをし、家庭裁判所が「審判」という形で保佐の開始を決めて上で保佐人を選びます。
但し、保佐は、後見の場合と違い、本人に少しは判断能力があるので、保護の度合いも少し弱いものとなります。具体的には、民法(第12条)が定める 財産行為、たとえば、不動産、自動車、株式など重要な財産を売買したり担保に入れること、お金を借り入れたり保証人になること、訴訟行為をすること、相続を放棄したり遺産分割をすること、他人に財産を贈与したり、和解をすることなどです。これらの行為をするときは必ず保佐人の同意が必要になり、保佐人の同意またはこれに代わる家庭裁判所の許可がないときは、本人または保佐人によって取り消されることになります。
また、本人の財産や生活の状況において必要があれば、民法が定める上記の財産行為以外にも、保佐人など一定の申立権者の申立によって、家庭裁判所は、保佐人の同意が必要な財産行為を定めることができ、保佐人の同意などがないときにこれを取り消すことができることも同じです。
但し、同意権があるということと、本人に代わって代理行為ができるということとは別のことです。実際には、同意ではなく、保佐人が本人の代理人としてその財産行為を行うことを予定するでしょうから、保佐開始の審判申立のときに、あるいは、保佐開始の審判が出た後、家庭裁判所に審判を申し立て、保佐人の同意を要する行為とともに、保佐人が代理権をもつ行為を具体的に定めてもらいます。但し、本人の同意が条件となります。
(3)補助制度
軽度の精神上の障害によって、判断能力が不十分な状態にある人にあてはまる制度です。
この場合も、本人、配偶者、4親等内の親族など一定の範囲にある人が家庭裁判所に申立てをし、家庭裁判所が「審判」という形で補助の開始を決定した上で補助人を選任します。
補助の場合は、さらに保護の度合いが軽減され、先に述べた民法第12条が定める財産行為の中から、本人の保護に必要なものだけを選び、保佐のときと同じように、家庭裁判所に審判を申し立て、補助人の同意を要する行為、補助人が代理権を持つ行為を家庭裁判所に具体的に定めてもらいます。もちろん、本人の同意が条件となります。
(4)申立てに際して注意すべきこと
いずれも場合においても、申立書を作成するほか、決められた一定の書類(戸籍謄本など)を、後見などを開始する本人の住所地を管轄する家庭裁判所に提出し、申立の手数料(収入印紙)などを支払わなければなりません。
また、成年後見なのか、保佐なのか、それとも補助なのか、どの申立をすべきかを決めなければなりません。その指標となるのが専用の診断書です。
まずは、申立をしたいとするあなたの最寄りの家庭裁判所に行き、申立てに必要な書類一式をもらってきましょう。この書類一式は無料で交付してくれます。専用の診断書の用紙はこの書類一式の中に含まれていますし、申立書などの記載要領や用意しなければならない書類、手数料など申立にかかる費用のことも書かれています。
そこで、専用の診断書用紙と附属の回答書の用紙を取り出し、これを本人のかかりつけの医師に持参し、書いてもらって下さい。できれば精神科や心療内科の医師が望ましいのですが、ともかくかかりつけの医師にご相談ください。かかりつけの医師がいない場合、本人を精神科の病院や医院に連れて行き、診断を受けさせた上で今述べた診断書などの書類を作成してもらうことになります。この診断書の中に「判断能力判定についての意見」という欄があり、4項目のうちのいずれかにレ点を入れることになっています。レ点の場所で後見か保佐かそれとも補助かがわかるようになっています。
(5)本人と同居する親族が本人との接触を拒否し、本人と面会したり、本人を医師のところに本人を連れてゆくことも、また、診断書を書いてもらうこともできないが・・・
診断書なしに申立を行うことは可能ではありますが、そもそも本人がどの程度の判断能力があるのか、成年後見段階なのかそれとも保佐段階なのか、わからないままのやみくも的な申立ということになります。
但し、申立の際、家庭裁判所の受付窓口に上申書などの標目で書類を提出し、診断書が提出できない理由とそれでも申立を行わなければならない事情などをできるだけ詳しくかつわかりやすく書いておくべきでしょう。
家庭裁判所側がそういう事情を理解すれば、申立を受理し、家庭裁判所調査官が本人の自宅に赴き、本人や同居の親族と接触するなどして診断への協力を求め、診断が実施されることもあり得ましょう。その場合、診断結果をまって審判がなされることになります。
しかし、本人や同居の親族が診断を頑なに拒否し、成年後見などの開始に反対すれば、成年後見開始などの審判はできないでしょう。それは本人の意思が優先されるべきだからであり、また判断資料が乏しいからでもあります。
(6)弁護士費用を含め、どのくらいの費用がかかるか
まず、弁護士費用は、10万円~20万円(消費税は別)です。事案によりますが、普通のケースだと10万円(消費税は別)、複雑なケースで20万円 (消費税は別)が基本です。他に、家庭裁判所に提出する診断書作成費用が数千円、家庭裁判所から医師に精神鑑定を実施してもらう費用が6~10万円です。 精神鑑定まで必要なケースは事案にもよりますが、事件全体の30%弱だと思われます。他に、印紙代(1件につき800円)、郵便切手代、法務局への登記 嘱託手数料、戸籍謄本や証明書など申立に必要な書類の発行、取寄せ費用がかかります。
付け加えると、昔は申立から審判まで数ヶ月もかかっていたことがありましたが、最近は裁判所の審理にかかる時間が短縮され、早いと数日後には審判が出るケースも珍しくありません。費用がかかる精神鑑定をする割合もさらに少しずつ低くなっているようですし、鑑定費用も、静岡では5万円前後になっていると思います。
ともかくも、申立てには提出する書類、書く書類(申立書、附票、財産目録など)がかなり多いとは思います。事案によっては、費用を払ってでも弁護士に依頼するメリットはあると思われますので、一度、お気軽にご相談下さい。